「お墓騒動」

タクシーに乗りました。運転手氏は年輩の丸坊主の男性です。齢を聞けば手前どもより一つ若いのでしたが、随分と年寄りに見える風貌です。

雑談を交わし、「好きなタイプの女性は?」と尋ねました。男はいくつになっても女性への恋心を持つものです。

ションベンだけの用となっても、スケベ心が消え去るわけではありません。指もあれば舌もある、とそう簡単にはバンザイしない、ガダルカナル島の生き残り日本兵士の末裔なのでございます。

「やはり外見の見栄えのいい女性がいいですね」と丸坊主の運転手氏が答えました。

「具体的にはどんなタイプ?」と重ねて質問すると「うーむ」と沈思黙考のテイでございます。

「吉永小百合さんなんかどう?」と助け船を出しましたら、件の丸坊主運転手、「あんなババアはダメですよ、この前テレビで見たら、あんまり老けていてゲンナリしました」と宣ったのでございます。

フザケルナ、殿中ですぞ、無礼者!でございます。

よりにもよってあの憧れの吉永小百合さまを「ババア」呼ばわりするなんぞとは、なんという不心得者でございましょうか。その前に「最近の売り上げは今までの半分ぐらいです」、の愚痴に耳を傾け「お気の毒に」と同情を寄せていたのでしたが、とんだ喰わせ者であったのです。

支払いを済ませて車から降りる瞬間に、室内に向けて残るようスカシ屁を思い切り放ってやりました、ザマア見ろ、でございます。

まったくあの団塊世代の「至宝」というべき吉永小百合さまを、言うに事欠いて「ババア」呼ばわりとは何という不敬な輩でございましょうか。

お客商売の分際でありながら、もう少し口の利き方を、何故気をつけられないのだと、実に不快でございました。

こうしたコロナ禍にあっては、ちょっとしたことで腹を立てることが多くなっています。

こうした時であればこそ、笑えないながらも笑顔を浮かべて生きるのが、客商売の人間の心得だと思うのでございますが、運転手氏に限らずどうにもイライラを募らせている自分を発見し、反省しきりでございます。

が、こうした「ちょっとしたことを気にして不愉快になっている」のは手前どもばかりではないようです。

先日、同年代の男2人と久しぶりに会い、話す機会がございました。

そのうちの、以前大手出版社に勤めていた元編集者の男が「女房との諍いが多くなって困っている」と眉をしかめたのでございます。

男は現役時代は日本を代表する出版社に勤務し、名物編集長としてその名声を欲しいままにした男でございます。定年退職後もこれまでの慣例を破り、オーナー経営者の求めに応じて「顧問」として出版社に残り、後輩の指導にあたってきた「やり手編集者」でございます。

男が現役時代に手掛けた週刊誌や月刊誌が軒並みみヒットを飛ばし、大いに会社の発展に寄与したことも、定年後の「顧問」として男の地位を盤石なものにしていたのでございます。

が、コロナ禍が続くことで男の「顧問」としての出番も少なくなり、週に一度が二週間に一度、の出勤以外は、自宅でのテレワークとなったのでございます。

自宅でのテレワークとなれば、ついつい好きな酒に朝から手を出してしまう今日この頃となったのですが、これが奥方の気に障るところとなりました。

これまで結婚以来30余年…

 

 

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