「このところよく眠れない」と、我が女房ドノが嘆くのでございます。
隣の部屋に寝ている手前どものところまで届く、山伏の吹くホラ貝の如き放屁と、盗賊の高イビキのようなイビキを夜毎かいていて、よくもそんなことを言えたものだと呆れるのでございますが、「眠れないのはコッチの方だ」とでも言おうものなら、それこそ眠りの来ない、朝までの泥試合となるのは明らかでございますので「どうしてなのか？」と尋ねました。
すると女房ドノは「フィリピンに逃亡のルフィの一味の顔が、夢に出てきてうなされるのよ」と切ない表情を見せたのです。
「それに」と言葉を続けて「似てないかしら、あの一味の中の親玉の男、あんたの若い時にソックリな気がするんだけど」と宣うのでした。
言うに事欠いて、なんと失礼なことを言うんだ、と腹が立ちましたが、これまたここで堪忍袋の緒が切れれば、何十年前の出来事を持ち出してきて逆襲されるのは目に見えておりましたので、ここはジッと我慢の子でと、やり過ごしたのではございます。
が、我が女房ドノの言うように、朝から晩まで悪党の見本のような「フィリピンのルフィの一味」の悪相をテレビで流していたら、一般の家庭の主婦などは相当のダメージを受けるのでは、と危惧するのです。
手前どもの家でも、早速女房ドノが「警備会社に警備を頼もうかしら」と言い出しております。
警備会社にお願いするのは、それなりの資産があっての家のことで、何もないスカンピンの我が家がどうしてお願いしなければならないんだ、と正しますと「襲われたら恐いから」とまるで処女のようなことを口にしたのでございます。
「どこの誰がお前さんを襲うというのか、寝ぼけるのもいい加減にしろ」との言葉がまたしても口から出そうになりましたが、まさしく…
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