その男(ひと)はグイと睨みをきかせ、私の目を射るような真っすぐな目で一瞬胸が抉られるかと思うほどの迫力のある言葉を放ってきたのです。「俺の命の値段はいくらだ、言ってみろ」言葉に裂帛の気合いが入っているのが伝わってきます。が、やにわに「俺の命の値段は」と問われても返す言葉がありませんでした。呆気に取られ痴呆のようにその底光りする鋭い目を見つめ返すだけでした。
「5億か、10億か、お前さんは俺にいくらの値をつけるつもりなんだ」と尚も命の値段にこだわり、一歩も引く気配がありません。後でわかったことですが、少し前に自分が経営していたプロダクションが倒産し、そこで紹介してくれた男が「オヤジ、随分と太い金主がいるんです」と吹聴したために、私を大口のスポンサー現れると勘違いされていたようなのです。
沈黙の時間が流れました。が、このまま黙っていたのでは埒が明きません。意を決して圧倒的な存在感に打ちのめされそうになりながら「座頭市の映画のビデオ化権をお譲りいただけないかとお願いに上がりました」と辛うじて要件を伝えました。
すると「なあんだ、アンタは俺の、勝新太郎の命を買いに来たんじゃないのか」とそれまで見せていた獲物を狙うかのような獰猛な表情を一変させ、笑顔を見せたのです。
「スター・勝新太郎」の映画やテレビで見せるとは別の、人たらしの魅力的なプライベートの素顔でした。
「そうか、お前さんは俺の座頭市のビデオの権利を買いに来てくれたのかい…
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