都内の中心部にあるオープンカフェに行きました。
春のあたたかい陽光が心地良い午後でした。
普段はコーヒーは口にしないのですが、その日はなんとなくコーヒーを飲みたくなったのです。
コーヒーを飲まなくなったのは、飲むと眠れなくなるからです。
特に夕方の6時以降に口にするとカフェインがてき面に体に効いて、眠ることができません。
見かけの図太さの割には神経が細いのです。
しかし、その日は夕方までまだ時間がありました。
久しぶりにカフェでコーヒータイムを、と洒落てみようと考えたのです。
知人との待ち合わせにカフェを選び、入りました。
若いウエイトレスが注文を取りに来ました。見るからに可憐な美少女です。
美少女といっても20歳は過ぎているように見えましたが、その幼い目鼻立ちからはまだ高校生といっても通用するように思えました。
コーヒーを頼んで彼女に「君はとても可愛いね」と感じたままを申し上げました。
「今年出会った女性の中で、君はナンバーワンの美しさだよ。驚いた、感動した、できることならこれ以上驚かせないで欲しい」と誉めそやしました。
福田前事務次官のように「抱きたい」「キッスしたい」「胸を触らせて」とまでは口にする勇気がありませんでしたが、心は福田事務次官でした。
麗しきウエイトレス嬢は普段そうした誉めそやしには慣れていないようで「そうですか」とはにかんだ表情を見せながら頬を赤く染めました。
「そんなことを言われたのは生まれて初めてです。誰もそんなことを言ってくれないから感激しました」と心の内を吐露して、瞳を潤ませさえしているのでした。
「私はね、これまで職業柄7000人の女性を見てきたけれど君は10本の指に入るほどのレベルだから自信をもっていいよ」とさらに言葉を加えました。
10本の指に入る、とは”ベスト10に入る”とのことで、”秘壺に10本の指が入る”ということではないことは言わずもがなのことです。
「へえ、7000人もの女性ですか、凄いんですね、どんなお仕事をなさっているんですか」「当ててごらん」「難しいです。私はまだ社会のことが分からないから男の人がどんなお仕事をなさっているのか見分けがつかないんです」と言いながらも好奇心を抑えきれないようで、上気した顔です。
「私はねえ、君に自信を持ってもらいたいから正直に言うよ、私に褒められたことは名誉なことです。私は女性の専門家ですからね」
「お仕事はなんですか、知りたいです」「私の仕事を聞いて君が驚くことを考えたらどうしようかと迷っちゃうな」「そんなイジワルを言わないで、教えてくださいよ」
「よし、分かった、コーヒーを持ってきてくれた時に教えてあげる、私の仕事を君が知ったら、褒められたことをきっと誇りに思うよ。誤解しないで欲しいのは、私はその辺のスケベオヤジじゃないからね。女性の美しさにかけては専門家なんだから、やりたいばっかりの好きモノオヤジに声をかけられたと思ったら大間違いだよ」
「分かりました、コーヒーをお持ちします。その時にお仕事を教えてくださいね」と爽やかな笑顔を見せながら厨房に向かわれたウエイトレスさまでした。
まるでスキップをするように、です。
コーヒーが運ばれてきました。ウエイトレス嬢は熱い眼差しで手前どもを見つめています。
女性として生まれてきて、この言葉を聞くために今日まで生きてきた、との希望に満ちた顔がそこにありました。
「さっき、君が立ち去ってから改めて思ったんだけれど、君の美しさは尋常じゃないものがあるね、ただその自分の価値を君自身が知らないだけで、その価値を知っている私には君が眩しく見えて仕方がないよ。運命の出会いがあったと心の底から打ち震えているよ」
「ありがとうございます。嬉しいです。そこまで言っていただけるなんて」
ウエイトレス嬢はまるでご本尊さまを見るような尊敬と愛が入りまじった目で手前どもを見つめられたのでございます。
”お店が終わったら私の泊っているホテルの部屋で後のことは詳しく話そうか”とホテルのルームナンバーを教えたら間違いなく訪れてくるに違いないと確信しました。
運命の出会いだ、との言葉がきっと彼女の頭を過っていたに違いありません。
自分の魅力をよく理解してくれてこれほどまでに愛であげてくれる男性に「女の悦び」を教えて欲しい、とさえ熱望しはじめていたことでしょう。
「私の仕事はね…」「なんですか?」「私の仕事はね…