ご覧になった方もおられたかと思いますが、テレビで阿川佐和子さまとの対談番組に出演していた俳優の藤竜也さまが、「忘れられない言葉」として、ある映画監督に言われた「君はなにもないんだよ」の言葉をあげられていました。
藤竜也さまは恋人と待ち合わせをしていた銀座で日活のスカウトマンにスカウトされ、俳優という仕事がどういう仕事であるかも分からないままに、俳優の道を選んで日活に入社されたのです。
頭にあったイメージは、当時スーパースターだった石原裕次郎さまが波止場でイカリに片足をかけ、眉をしかめながら煙草をくゆらすシーンでした。
自分も俳優になったら憧れの裕ちゃんのように格好つけて煙草を吸えばいいのだろう、と簡単に考えていましたが、現実は違いました。
一人で煙草をくゆらすようなシーンを演じる時はやって来ず、煙草をくゆらすのは裕ちゃんの後ろで「その他大勢」の出演者の一人として、というものでした。
通行役が仕事、の毎日が過ぎていきます。さすがに藤竜也さまも焦りました。
なんとか裕ちゃんのような売れっ子になるのにはどうしたらいいのだろう、と悩んだのです。
そこで日活の監督陣の中でも一目置かれていたある監督の自宅に一升瓶をさげて伺いました。
「一升瓶をお土産に持参する」のが最も礼儀にかなった時代でした。
監督は藤竜也さまの「自分はどうしたらいいでしょう」の質問に対し、ポツリと「君はなにもないんだよ」と答えられたのです。
この言葉を聞いて、藤竜也さまは電流が全身に流れたように痺れました。
そうだ、俺にはなにもないのだから、売れないのが当たり前なのだ、と今日においても、あの時監督に言われた「君はなにもないんだよ」の言葉を、人から言われた言葉の中で一番価値のある言葉、として大切にしています。
その後、藤竜也さまは大島渚監督の「愛のコリーダ」に出演します。
周囲からは猛反対されましたが、自分にとってこの映画に出演することは宿命であると考え、敢然と挑戦しました。
海外での評価の大きさと比べて日本国内での評価は「キワモノ」扱いされ、散々でした。
周囲の人間が口をきいてくれなくなり、2年間仕事が全くない日々が続きました。
また映画「愛のコリーダ」はワイセツ容疑で裁判にかけられました。
大島渚監督をはじめとして、この映画にかかわった人間は警察の事情聴取を受けました。
主演の藤竜也さまも警察から事情聴取を受けた一人でした。
裁判は7年間に及び、結果、大島渚監督は無罪を勝ち取っています。
手前どもにも、過去に人生を左右した言葉がいくつかあります。
AV監督として…